速瀬水月(俺の嫁)との旅行記



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―そうして一時間半ほどで、甲府に到着だ。―


駅員「甲府ー甲府ー」

水月「ああ、もう夜の6時半じゃない。
   今すぐ引き返さないと、おうち帰れなくなっちゃうわよ?


俺「だいじょうぶ、だいじょうぶ、
  とりあえず、甲府に来たら行くところがあるだろ?


水月「信玄さんなら記念写真撮ったわよ。

俺「それも大事だけど、
  山梨の本買わなきゃ!やまなし!

水月「本??


水月「ちょっと!記念マン!
   もう7時になるわよ!
   のんきに本なんて眺めてる場合じゃないでしょ!


俺「まあ慌てるなよ、水月。
  旅の重要な楽しみの一つは、
  そこでしか手に入らない本を探すことだろ?


水月「旅・・って、
   あたしはビデオ返しに行くの付き合っただけなんだけど!


俺「よし!決めた!これ買うよ!

水月「何買うの?ちょっと見せてよ。


水月「記念マン・・・・・・・・これ・・・って・・・・!

俺「ああ。『甲陽軍鑑』だよ。上中下の三巻セット。
  甲斐武田氏の歴史を詳らかに語り、
  あの山本管介も登場するという。

水月「でも、これ、『口語訳』って書いてあるわよ・・・?

俺「そりゃそうだろ。
  実物は漢語らしいし、ぶっちゃけそんなの読んでられんわ。


水月「古典を口語訳で読むのって、
   洋画を吹き替えで見るような気恥かしさがあるわよね・・・


俺「うるさいなあ。いいじゃないか。
  それよりもう一冊をみてごらんよ。



水月「へえ〜。山梨の郷土食ねえ。
   これは面白そうね。ほうとうとか信玄餅?

俺「そうだね。
  これ、ひょっとしたら蜂の子のなんとかとか、
  イナゴのなんとかとか、
  山梨も山奥だからアレなのオンパレードかと思ったら、
  意外と普通だよ。
  このタニシ汁ぐらいかな。変わっているのは。

水月「田螺??
   ジャンボタニシはやばいって聞いたけど・・・


俺「水月も案外ようつべとか見てるんだね。


水月「そ、そんなことより!
   もう7時まわってるのよ!
   これからどうするのよ!!


俺「ああ、そのことか。
  それならさっき電話したよ。

水月「電話?

俺「うん。なんだか、山奥のひっそりとした温泉宿に行きたくてね。
  こう、水の音と、虫の音、鳥の音、風の音。
  ほかは何にも聞こえない、見えない、
  そんな感じの山奥の一軒宿に行って、
  のんびり、静かに湯治したいんだ。

水月「家にいるとやることたくさんあるもんね。。。

俺「ああ、三国志とか、ふたばとか、ね。
  全く気が休まる時がないよね。

水月「う、うん、で、その宿ってどうなの?
   今から泊まれるの?もう夜だよ?

俺「いや、それがさ。
  今夜は空いてますよ、っていうんだけど。


水月「やったじゃない!

俺「それがさ、駅からバスで60分かかるんだってさ。

水月「甲府から?

俺「いや、甲府から電車で30分かかる駅。
  そっからバス60分。


水月「えー
   じゃあ今から行っても着くのは9時ね。。。


俺「いや、ところがそうじゃない。

水月「え?何かいい方法あるわけ?


俺「いや、駅からのバスはとっくに終バスが終わってるってさ。


水月「え?じゃあ・・・

俺「ああ、今日はそこにとまるのは無理だ。

水月「もーーー!
   どうするのよ! ぶっとばすわよ!

俺「代わりと言ってはなんだけど、
  別の宿を手配したよ、

水月「それを先に言いなさいよ!!
    ほんとにぶっとばすわよ!」



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